ハイローラーサーキットの重鎮、スティーブ・オドイヤー(Steve O’Dwyer)は、業界への意見を隠すような男ではない。現在開催中のAsian Poker Tour (APT) 台北・チャンピオンシップの会場で、このレジェンドは欧米のハイステークスプレイヤーたちに向けて辛辣なメッセージを投げかけた。
オドイヤーの主張はシンプルだ。「現在のトーナメント構造に不満を漏らすくせに、解決策を提示している数少ないメジャーイベントを無視するのは筋が通らない」というものである。
APT台北のメインイベントは、賞金総額1億9400万台湾ドル(約600万米ドル)を超える記録的な数字を叩き出した。しかし、オドイヤーによれば、そこには本来いるはずの欧米の常連プロたちの姿が欠けている。彼らの多くは、アジアで開催されたこの名誉ある「フリーズアウト(再エントリー不可)」トーナメントよりも、同時期にカリブ海で開催されている「レーキ(手数料)の罠」のような大会を選んだようだ。
「フリーズアウト待望論」の欺瞞
オドイヤーがフラストレーションを感じている核心は、昨今のトーナメントフォーマットにある。長年にわたり、ハイステークスコミュニティでは「無制限リエントリー」に対する批判が絶えなかった。資金力が無限にあるプレイヤーが有利になりすぎ、トーナメントライフの価値が薄れるというのがその理由だ。
今回のAPT台北・メインイベントは、現代のポーカーシーンにおいては希少な存在だ。高額バイインでありながら、純粋なフリーズアウト形式を採用しているからだ。
「正直なところ、ここに欧米の英語圏のプレイヤーがもっといないことに失望しているよ」オドイヤーは会場でのインタビューでそう語気を強めた。「Twitterを開けば、みんなが不満を垂れ流している。『どいつもこいつも8回リエントリーとか、ふざけてる』ってね。そこでAPTが勝負に出て、巨大なフリーズアウトを開催した。結果はどうだ?ネットで文句を言っている連中は、誰一人としてここに来ていない」
APTは欧米のメジャー大会に匹敵する優勝賞金(110万米ドル以上)を用意したが、多くのプロはバハマのシリーズを選んだ。「あっちの『レーキの罠』のような大会を優先して、ここに来ない正当な言い訳なんて存在しない」とオドイヤーは切り捨てた。
伝説の「マカオACOP」精神的後継者
今回の遠征は、オドイヤーにとって初のAPTメインイベント参戦となる。彼が台北に足を運んだ最大の理由は、Michael Soyza(マイケル・ソウザ)率いる新オーナーシップグループへの支持だ。オドイヤーにとって、新生APTはかつてマカオで開催されていた伝説のシリーズ「Asia Championship of Poker (ACOP)」の正統な後継者として映っている。
「長年、マカオのACOPのような精神的支柱となる大会を待ち望んでいたんだ。あれはずっと私のお気に入りのイベントだった。今回のAPTは、間違いなくその後継と言える」
彼は過去15年間、European Poker Tour (EPT) やその他のイベントと日程が衝突していたため、アジアの大会に参加できなかったと振り返る。しかし、SoyzaたちがAPTを引き継ぎ、新たなビジョンを掲げたことで、彼は自身のスケジュールを変えることを決意した。
EPTプラハ欠場と「バハマ引退宣言」
オドイヤーは今回、長年の慣習を破る決断を下した。彼は自身を「バハマ引退(Bahamas-retired)」と称し、WSOP Paradiseなどのカリブ海のイベントには参加しないと明言。さらに驚くべきことに、冬の定番であるEPTプラハも欠場し、アジア滞在を延長するという。
「言うのも辛いが、ついにEPTプラハを見送ることになる。これまでは日程が厳しくても何とか参加していたんだが、今回は妻と一緒に来ているし、大会後はアジアで休暇を楽しむと約束したんだ」
また、彼は「アジアは遠い」という一部のプレイヤーの言い訳を一蹴した。
「ここはシベリアじゃないんだぞ。アクセスは簡単だし、台北は欧米人にとって非常に過ごしやすい街だ。ほとんどの人が英語を話せるし、物価だって驚くほど安い」
記録的な参加者数が示す通り、APTが掲げた「高額バイイン・フリーズアウト」という戦略は、アジア市場で大きな成功を収めた。オドイヤーにとって、真の価値(バリュー)は台北にあった。公平な競技環境を求めると主張していたプロたちは、自らの行動でその意思を示す絶好の機会を逃したと言えるだろう。







