映画のようなテキサスホールデム詐欺事件
アメリカのポーカー界を揺るがす前代未聞の事件が明るみに出た。連邦検察によると、イタリア系マフィアが中心となる犯罪組織が、著名人や元アスリート、富裕層プレイヤーをターゲットにした地下テキサスホールデムゲームを運営し、総額700万ドル以上を不正に奪っていたという。被害者の中には一度に180万ドルを失った者もいた。
被害者たちは「フィッシュ」と呼ばれ、実際には勝ち目のない仕組まれたゲームに参加させられていた。
テクノロジーを駆使した“完璧なイカサマ”
詐欺グループは2019年頃から活動を開始し、Bonanno、Gambino、Lucchese、Genoveseといったマフィア・ファミリーのメンバーが関与していたとされる。X線ポーカーテーブル、チップトレイ内の分析装置、改造シャッフルマシン、テーブルや照明に仕込まれた隠しカメラ、さらにカードを読み取れる特殊サングラスやコンタクトレンズなど、あらゆる機器を駆使して勝敗を完全に操作していた。
場外の「オペレーター(operator)」がリアルタイムでデータを受信し、「クォーターバック(quarterback)」または「ドライバー(driver)」と呼ばれる共犯者に情報を送信。クォーターバックは、1000ドルチップを触る、顎・手首・腕をタップするなどの合図で仲間にカード情報を伝え、誰が最強の手を持つかを示した。もし被害者が最強ハンドを持っていた場合、彼は黒いチップに触れて合図したという。
米司法省が押収したメッセージでは、詐欺グループが「被害者を長くテーブルに留めるため、わざと勝たせる」ことや、「プレイヤーを入れ替えたり、仲間に負けることで疑われないようにした」様子も記録されている。「40分で4万ドル負けてる。少し勝たせないと帰るぞ」とのメッセージに、別の共犯者が「了解」と返信していた。
NBAスターを“顔役”に使った巧妙な誘い
検察によると、ポートランド・トレイルブレイザーズのヘッドコーチ、チョーンシー・ビラップス(Chauncey Billups)と元NBA選手デイモン・ジョーンズ(Damon Jones)は、「フェイスカード」として富裕層を誘い込む役割を担っていた。NBAスターと同卓できるハイステークス・ゲームの魅力に惹かれたプレイヤーたちは、実際には罠の中に座らされていた。
ビラップスはポートランドで逮捕され、NBAにより職務停止処分となった。弁護士のクリス・ヘイウッドは「ビラップスは誠実な人物であり、容疑を争う」とコメント。ジョーンズもポーカー詐欺とNBAの八百長賭博事件の両方に関与した疑いで起訴され、電信詐欺共謀2件とマネーロンダリング共謀2件の罪に問われている。
不正資金は暗号資産で洗浄、マフィア資金に流用
検察によれば、不正に得た資金は暗号資産、現金取引、ペーパーカンパニーを通じて洗浄され、マフィアの活動資金として使われていた。FBIニューヨーク支局の責任者(Assistant Director in Charge)クリストファー・ライアは、「この詐欺は全米に被害を広げ、有名人の知名度と他人の資産を利用してマフィアを潤わせた」と述べた。
FBI長官カッシュ・パテルは「まるでハリウッド映画のような詐欺事件だ」と述べ、この事件を「信じがたいほど巧妙なスキーム」と評した。事件はニューヨーク、マイアミ、ラスベガスなど全米各地で行われ、これまでに30人以上が逮捕されている。
華やかなテキサスホールデムの裏で行われていたのは、マフィアによる完璧なイカサマ。今回の事件は、どんなテーブルでも“ハウスが勝つ”という冷酷な現実を改めて浮き彫りにした。mafia-poker-scam-7m-texas-holdem







