かつて12月のポーカーシーンといえば、1年の締めくくりとして静かに過ごすオフシーズンでした。しかし、その常識は完全に過去のものとなりました。今や12月は、年間で最も熱い「決戦の場」へと変貌を遂げています。
その中心に君臨するのが、ウィン・ラスベガス(Wynn Las Vegas)で開催されるWPT世界選手権(WPT World Championship)です。
今年で4年目を迎えるこのフェスティバルは、単なる大型イベントの枠を超え、ポーカー界の勢力図を塗り替える存在となりました。2025年大会は過去最大規模となる全78イベントを開催。そのメインとなるバイイン$10,400の「WPT世界選手権」は、12月13日から21日にかけて行われます。さらにWPT Prime選手権やレディース選手権、そして賞金総額150万ドルのバウンティが追加された新イベント「ClubWPT Gold Mystery Quest」など、話題性は十分。今年の冬、ラスベガスで何が起きようとしているのか、その見どころを徹底解説します。
メインイベントの賞金規模:再び「伝説」を作れるか?
プレイヤーや業界関係者が固唾を呑んで見守っているのは、メインイベントの参加者数、そして賞金プールの行方です。WPT世界選手権は過去3年間、ジェットコースターのような劇的な数字を叩き出してきました。
2022年の初開催時には2,960エントリーを集め、2,900万ドル(約43億円相当※当時のレート)という巨額の賞金プールを形成。続く2023年にはエントリー数が3,835名へと爆発し、ライブトーナメント史上最高額となる保証賞金総額(GTD)4,000万ドルを掲げ、世界中に衝撃を与えました。
市場の調整局面となった2024年は、2,392エントリー、賞金総額約2,344万ドルという結果に。そして迎える2025年、最大の焦点は「フィールド規模は2,000万ドル台で安定するのか、それとも構造改革によって再び3,000万ドル超えのメガ時代へ回帰するのか」という点にあります。
主催者側も手をこまねいているわけではありません。ミックスゲームやPLO、中・低レートのサイドイベントを大幅に拡充し、プレイヤーがウィンに長期間滞在したくなるスケジュールを構築。実際、早期のサテライト通過状況は2024年のペースを上回っており、参加者数のV字回復を予感させるデータも出ています。
12月の覇権争い:WSOPパラダイス、EPTプラハとの三つ巴
今年のWPT世界選手権は、かつてない「激戦区」の中にあります。12月のポーカー界は、主要ツアーがプレイヤーの奪い合いを繰り広げる、まさに軍拡競争の様相を呈しています。
最大のライバルは、バハマで開催されるWSOP Paradiseです。25,000ドルのスーパーメインイベントになんと6,000万ドルという破格の保証賞金を掲げ、ハイローラー層を強力に誘引しています。一方、欧州では伝統あるEPTプラハが開催されており、長距離移動を避ける欧州のプロたちをがっちりと囲い込んでいます。
この三つ巴の状況下で、WPTとウィンが打ち出した戦略は「層の厚さ」です。一部のハイローラーだけでなく、バイインは200ドルのサテライトから25,800ドルのハイローラーまで幅広いバイインを用意。あらゆるバンクロールのプレイヤーが楽しめる巨大なエコシステムを構築することで、ポーカーの聖地・ラスベガスへの集客を狙います。
「1ドル」から夢の舞台へ:サテライトが変える参加者層
WPT世界選手権のフィールド構成は、劇的な変化を遂げています。かつてのように、ダイレクトバイイン(直接参加費を支払う)のプロプレイヤーだけで埋め尽くされる時代は終わりました。現在のフィールドには、オンラインサテライトや懸賞トーナメントを勝ち抜いてきた猛者たちが大量に流入しています。
この変化を牽引しているのがWPT Globalです。わずか1ドルから始まるステップアップ形式のサテライトを勝ち抜けば、最終的に1,060ドルの予選を経て、参加費($10,400)と渡航費を含む12,400ドルのフルパッケージを獲得できるルートが確立されています。これにより、普段は1万ドルの大会に参加しない中・低ステークスのプレイヤーにも、夢の舞台への扉が開かれています。
さらに今年は、ClubWPTによる「Gold Mystery Quest」が新たな動きを見せています。オンライン予選を通過した100名がウィンへ招待され、150万ドルの追加バウンティを懸けた戦いに挑みます。これらのルートにより、2025年のフィールドは「一獲千金を夢見る予選通過者」と「百戦錬磨のトッププロ」が入り乱れる、ドラマチックな展開となるでしょう。
歴代王者とPOYレース:年間最優秀選手は誰の手に?
歴史は浅いものの、WPT世界選手権の優勝者リストには錚々たる名前が並びます。2022年のEliot Hudon、2023年のDaniel Sepiol、そして2024年に250万ドル以上を手にしたScott Stewart。これら3名の歴代王者は全員WPTチャンピオンズクラブのメンバーであり、今年もタイトル防衛のために戻ってくることが確実視されています。
また、この大会はシーズン23のプレイヤー・オブ・ザ・イヤー(POY)争いの最終決戦の場でもあります。現在、WPT Prime Lodgeの勝者であるHarvey Castroが1,850ポイントで首位を走っていますが、リードは安全圏ではありません。シーズン22のPOYであるYunkyu Songや、Dylan Smith、Eric Afriatといった強豪たちが僅差で追走しています。
世界選手権とPrime選手権は配分されるポイントが極めて高いため、たった一度のディープランでランキングが劇的に入れ替わる可能性があります。POY候補者たちにとって、ウィンでの戦いは栄光とプレッシャーが同居する過酷なものになるはずです。
アジア勢の躍進:かつてない国際的なフィールドへ
開催地はアメリカですが、2025年のWPT世界選手権は、これまでで最も国際色豊かな大会になると予測されています。データが示す顕著な傾向として、アジア太平洋地域(APAC)とラテンアメリカからの参加者が急増しています。
特にブラジル市場の急成長や、アジアにおけるポーカーブームが、WPT Globalなどのオンライン予選を通じて直接的な動員につながっています。「パスポート」システムを利用して海を渡るプレイヤーが増加しており、昨年の大会でも数十カ国のプレイヤーが参加しましたが、今年はさらにその多様性が広がる見込みです。
12月13日、シャッフルアップ&ディールが宣言された瞬間、そこには世界中から集まった多種多様なプレイヤーたちが、今年最大級のタイトルを懸けてしのぎを削る光景が広がっていることでしょう。







